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機械設計の外注から納品までの流れ

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近年、企業の大小問わず、市場ニーズの複雑化に伴い、負荷分散による業務効率向上やプロジェクトのスピードアップなどを目的として、業務の外注化(アウトソーシング)が進んでいます。
本記事では、おおまかな機械設計の業務内容、特に製品設計や設備設計で一般的なトップダウン設計の流れや、外注する上での留意点について解説します。

機械設計とは?

「機械設計」という言葉だけをみると、機械図面を製図する作業と捉えられがちですが、製品を設計するのにあたり、機械設計者が担う実際の業務範囲はさまざまです。

広い意味での機械設計とは、製品が目的とする性能を満たすために、機構や仕組みのメカニズムが実現可能かどうか、工学的な視点で技術的に検討することや、設計したアウトプットのプロセス管理が大きなウェイトを占めます。

機械設計業務を遂行するにあたって必要なことは、エンドユーザーや納入先との仕様検討から、後工程となる電気設計や制御設計、調達、製造などの他部署との技術的すり合わせや調整まで、多岐にわたります。

機械設計の外注から納品までの流れ

上述したとおり、機械設計の業務は幅広く、経験や専門知識だけでなく経営資源や技術的リソースも多く必要になります。そのため、設計部門を持つ企業であっても、業務の内容や量によっては外注するケースがあります。

ここからは、機械設計を外注するときの一般的な受発注プロセスと、各フェーズで留意すべきポイントについて解説します。

1. 問い合わせ

機械設計を進めるにあたり、国際標準の「ISO」や国家標準の「JIS」「ANSI」などの工業規格がベースになります。一方で、ひとことに機械といっても、各分野で機械に求められる精度や耐久性といった性能は千差万別で、それぞれの分野独自の業界標準も存在します。機械設計者だからといって、すべての分野に精通しているわけではありません。

したがって機械設計の外注を検討する場合は、最初に、設計したい製品が委託先の企業や技術者の得意とする分野とマッチしているか、調査が必要です。
調査の方法は企業のHPを参照したり、問い合わせしたりするのが一般的ですが、その中でも取引企業や納入実績などに注目し、マッチングの参考にするとよいでしょう。また、契約の内容や規模によっては、秘密保持契約の締結や信用調査の実施などもこの段階で必要となります。

2. 仕様打ち合わせ→構想設計→発注

上記の委託先選定の根拠として、発注者側が明示した製品の要求仕様に対し、委託先の提示する見積りや構想が、意図する目的(指標)を満たすかどうかの評価が必要です。ここで考慮すべき「目的(指標)」は、能力、安全、環境、部材選定など多岐にわたります。

特に製造業では、代表的な指標の頭文字をとった「QCD」や「PQCD」などの用語がよく使われてきました。それが、近年ではSDGsに代表される環境保全などの意識の高まりを受け、製品設計でも今まで以上に幅広い視野が求められ、「PQCDSME」のように新たな指標を加えた用語が使われるようになってきています。

P:Productivity(生産性、生産方式)
Q:Quality(品質、完成度)
C:Cost(価格、経済性)
D:Delivery(納期)
S:Safety/Sustainability(安全性/持続可能性)
M:Morale(士気)
E:Environment(環境性能)

このような指標をもとに、構想設計と妥当性の確認を繰り返すデザインレビューを複数回実施し、製作仕様を決定したのちに、最終見積りを行い、発注となるのが一般的な流れです。

要求仕様を満たしているかが最終的な検収条件となりますので、議事録などを含めた要求仕様書を明確に書面化しておくことが大切です。

製品の「品質や収益性(=「市場競争力」)」の大半は、モノづくりの上流工程である開発設計段階で決まるとも言われています。そのため、このフェーズで全体の方向性を決定することは、後工程の完成度を左右する非常に重要なプロセスだといえます。

3. 外注先による設計→製造

仕様書と構想設計をもとに、メカニズムのアイディアや必要とされる機器の選定、強度や剛性といった計算結果などをレイアウトや構造として、図面に具体化していく工程を「詳細設計」といいます。

具体的なイメージがみえてくるにつれ、当初の仕様から変更せざるを得ない部分や実現できない部分が出てくることがあります。また、実際に製品が出来上がってからでは修正が困難な部分(構造や金型など)についても、詳細設計の段階で発注側と製作側の双方によるデザインレビューを実施し、妥当性の評価や、仕様書改訂のサイクルを設けることが重要です。

詳細設計が完了したら、部品設計や部品リストの作成→組み立て図の作成、組み立て→不具合対策と進みます。

設計では、いきなり狙ったとおりの性能が発揮されないこともあります。設計ミスにより組み立てがうまくできなかったり、品番が一文字違う別の部品を購入してしまったりして、想定どおりに動かないといった不具合は、部品点数が多く複雑になればなるほど発生しやすくなります。
不具合のレベルによっては組み立て中に現場で修正したり、再設計が必要になったりと対応はさまざまですが、現物合わせの不具合対策であったとしても、すべてのドキュメント(詳細図面、部品図面、部品リスト、組み立て図面など)に一貫して確実に内容と履歴が反映されていることが非常に重要です。

4. 検証・立会

不具合対策や手直しが完了し、狙った性能や機能を実現できることが確認できたら、納入前の検証を行います。製作者側独自で検証を行い、仕様書どおりのアウトプットが得られているか確認する場合もあれば、発注者同席のもと検証を行う「立会検証」と呼ばれるパターンもあります。

医療機器の立会検証を例にとると、安全性に問題はないか、計測機器が正確に動作しているか、操作系にバグはないか、機器付属品に抜けはないかなどの確認を行います。
基本的に、ここでは要求仕様書どおりの正しいものに仕上がっているかどうかを確認します。したがって、根本的な品質面や安全面に問題がある、法律に抵触するといったことがない限り、これより先の改造や変更に関しては受発注者双方で改めて協議し、費用面や納期面を調整する必要が出てきます。

5. 納品

各項目で検証が完了し、受発注者双方が納得できる状態となったら納品・検収となります。特に大型の医療機器やアミューズメント機器では多くの場合、製作者側で現地調整、操作説明といった作業を行います。また、発注者側も設置レイアウトや電源、搬入経路など受け入れ環境を事前に整備しておく必要があります。

まとめ

Inside the Heavy Industry Factory Close-up Footage of Industrial Engineer’s Hands Working on the Personal Computer with Two Monitors Designing Turbine/ Engine in 3D, Using CAD Program.

機械設計を外注し納品するまでの一般的な流れについて解説しました。案件の規模によっては数週間単位で完了するものから、年単位での長い取り組みとなるものまであります。
各プロセスでのベースは仕様書であり、仕様書の完成度一つでも最終的な品質や費用、納期などが大きく異なります。そのため、発注者は製品のコンセプトを明らかにし、必要な能力や機能などについて明示する必要があります。
しかし、仕様の検討には複合的な専門知識が必要になることから、パーフェクトな仕様を制定するのは大変難しいことです。そのため、構想から設計初期の段階にリソースを多く投入し詳細を確実に固めていくことが、結果的に手戻りを少なくしてプロジェクト全体のスピードアップにつながります。

執筆者プロフィール:
伊藤 慶太
技術士(機械部門 専門:加工・ファクトリーオートメーション及び産業機械)
大学卒業後、生産設備メーカーでNC加工業務や半導体関連設備の機械設計業務を経験。
現在は、産業用機器メーカーの生産技術職としてIE(Industrial Engineering)手法をベースに、生産工程自動化設備の計画・設計やIT・IoT活用などよるファクトリーオートメーション業務に広く携わる。

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