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デジタルトランスフォーメション(DX)とIoT・ICTとの違いについて解説
ここ数年、ビジネスシーンで見聞きすることが増えた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。”Digital Transformation”を直訳すると「デジタル変換」となりますが、この言葉だけではイメージしづらいかもしれません。そこでDXという概念をより理解しビジネスに生かすために、DXの基本的な知識に加えて、企業がDXに取り組むメリットや国内企業の成功事例をご紹介します。
製造業におけるDX推進の課題と対策ポイントについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
「DX」と混同しがちな用語に「ICT」「IoT」があります。まずは、ICTとIoTそれぞれの言葉の定義についてご説明します。
ICTとは「Information and Communication Technology」の略です。
一方、ITは「Infomation Technology」の略で、ICTとITの差は「and Communication」の有無にあります。
日本語に訳すと、「ICT=情報通信技術」「IT=情報技術」ですが、「通信(コミュニケーション)」の意味するところは、「人と人との繋がり」です。 そのため、ICTは「メール・チャット」「SNS」「掲示板」「ECサイト」「ネット記事の検索」などのサービスを指す場合に用いられます。
一方のITは技術そのものを表していて、サービスを示唆するものではありません。
IoTは「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」などと呼ばれ、「さまざまな物をインターネットに接続できる状態にし、その情報を活用すること」を意味します。
日常生活で利用しているIoTの具体例には、次のようなものがあります。
・自宅のエアコンや照明器具、電子レンジ、給湯器(浴槽のお湯はり機能など)といった家電の遠隔操作をスマートフォンで行う
・体組成計で測定した体重や体脂肪率、筋肉量などのデータをスマートフォンアプリに転送する など
上記のような製品は「スマート家電」と呼ばれ、インターネットを通じて制御されるIoT機器の一つです。
また、普段はあまり存在を意識していないけれど、私たちの暮らしに役立っているIoT機器の例も挙げてみましょう。
・電気・ガス・水道メーター
・GPSを用いた交通車両(電車・バス・自動車)の位置情報 など
上記に加えて、水道・ガス配管の流量計や河川ライブカメラなど、インフラ面で点検員がその場所に行かなくてもリアルタイムに状態を確認できる例や、2015年ごろからは農業への活用例(土の乾燥度合いが遠隔で確認できる、温度によって自動で散水するなど)も出てきています。
このように、生活を便利にしたり安全にしたりする基盤がIoT技術の大きな特徴と言えます。
さて、ここで本題のDXについてです。
DXは、ICT・IoTのように「技術やサービスを示すもの」ではなく、「概念」の一種です。
交通を例に挙げますが、「馬車から自動車に」「電車から新幹線に」と技術はさまざまな進化を遂げ、人々の生活を豊かにしてきました。DXもそれら同様に、進化する情報技術を用いて人々の生活をより豊かにすることを目的としています。
また、デジタルトランスフォーメーションと紛らわしい言葉に、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」があります。端的に言うと、デジタイゼーションは「アナログからデジタルへ」、デジタライゼーションは「デジタル化に伴うプロセスの変化」を意味し、どちらも「DXの過程の一つ」です。これらをDXそのものだと勘違いしないように注意しましょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を行うにあたっては、「解決しようとしている課題が何であるか」を明らかにすることがまず第一歩といえます。
ここでは、経理業務のDXを推進したいケースを例に見ていきましょう。
経理業務は、「見積書→発注書→納品書→検収書→税務」という流れで行うのが一般的です。もし、「書類は紙でやりとりする」というルールによって、膨大な作業時間を要するほか人的ミスが業務課題になっているならば、書類をデジタル化してPDFなどで取り込む必要があります。
次に取り込むものが経理システムに取り込まれるためには、手書きの文字を値(あたい)として変換しなくてはなりません。ここではOCR(Optical Character Reader:光学的文字認識)技術が活躍します。
また、OCRでデジタルの値(あたい)になったものをシステムに入力する段階では、RPA(Robotics Process Automation)と呼ばれる事業プロセス自動化技術などが活躍します。
これらの技術を複合的に用いることで、経理担当者の転記ミスを防ぐことや残業を減らすことができるとともに、印刷費用などの経費も軽減できます。
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むことで得られるメリットはさまざまですが、主なメリットは次のとおりです。
DXはプロセスそのものを変化(改善)させます。この変化によって、例えば、団塊世代の退職などによる従業員の減少に伴う従業員の「ムリ」や、なんとなくで長年続けてきた業務に介在する「ムダ」、担当者ごとの業務内容や質の「ムラ」などを軽減することができます。むしろ「ムリ・ムダ・ムラの排除」を目標にすることがDXを行う意味でもあります。
ムリ・ムダ・ムラが減ることで、ミスを事前に防いだり、リカバリーのための時間が削減できたりします。
DXに取り組んだ結果、今まで行っていた事業に付加価値が生まれるケースがあります。
詳細はのちほど触れますが、「製造業における生産設備の故障予知」や「アパレル業界におけるバーチャル試着」、「不動産業界におけるVR内覧」などは特徴的な例と言えます。
続いて、企業がDXに取り組むときに直面しがちな課題についてご紹介します。
ここまででご説明したように、DXは概念(抽象的な理想像)であり、「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」はその概念を現実化させるための手段でしかありません。
概念を正しく理解するには繰り返しの経験を積む必要があり、一筋縄ではいかないとされています。
しかしながら「DXを正しく理解し、経験している」という人はほとんどいないのが現状です。そのため、最初から最適な行動がとれるとは限りません。いろいろと試しているうちに手段を実装することが目的になってしまわないよう、概念(理想像)と手段を分けて考えることが非常に重要です。
アプリケーション開発などで用いられる有名なフレームワークに「アジャイル手法」があります。アジャイルの中でいう「スプリント」(一連の工程を短く区切った期間)は1~2週間が平均的です。
●●を1~2週間のあいだに形にし、さらにそこから洗練していくことで、継続的に改善する力が身に付きます。DXは一度やってしまえば当面しなくていい、というものではありません。アジャイル手法でスプリントの反復が欠かせないように、そのタイミングに合わせた最適解を求め続け、最適化していく習慣こそDXには重要です。
DXを実現するにあたって、今までにないものを新たにつくる挑戦となることがよくあります。
その際に、普段の業務をしながら空き時間でDX推進プロジェクトを、といった考えでは真剣に向き合えず、上述した短期間での反復ができません。
DXを進めていく中で、すべてデジタル化に舵を切ってしまうとついてこられない人が出てきます。
最たる例が予約や申し込み、金銭取引などがスマートフォンでしかできないサービス体制です。
また、先ほどの経理業務を例に挙げると、すべての取引先がデジタルで処理できるとは限りません。
だからといってその取引先が主要取引先だった場合、取引をなくすわけにもいきません。
また、従業員の中にも急激な変化についていけない人もいるでしょう。急激なデジタル化の波に置いていかれて、精神的に辛くなる従業員が出てしまっては、企業として労働者の心理的安全性を脅かす形となってしまい、社内の雰囲気が悪くなることが考えられます。
そういった、機械的な処理では済まない組織的課題にも意識して向き合うことが必要です。
経済産業省は「2025年の崖」と称して、企業が使用している従来のITシステムによる経済損失について警鐘を鳴らしています。
ユーザー企業(ITシステムを利用する側の企業)の中には、2000年ごろから企業独自で構築してきたシステムや、バージョンが古いシステムなど、現在のIT事情に追いついていないものが多く存在しています。
また、それらを開発した当時のエンジニアや、導入に携わった担当者などが異動や退職などで不在となり、システムの設計思想や機能がブラックボックス化してしまうといった問題が多くの企業で発生しています。
長年にわたり、つぎはぎで大きくなったシステムをリバースエンジニアリングしていくことは非常に難易度が高いです。
また各システムベンダーもいつまでもサポートできないため、サポート終了を宣言している場合も多いです。このような背景から事業が正常に回らなくなってしまうことで発生する経済損失は、2025年以降、2018年の約3倍、年間最大12兆円に上るとも予想されています。
さらに、システムベンダーへの依頼費が高額化し、自社では行えないシステムの運用保守・切り替え作業などに1人1月いくら、という形でお金を払い続けることになるリスクがあると言われています。
DXを進める上で、特に製造業で生じがちな課題についてご紹介します。
製造業においては、生産そのものに関わる面はこれまでにも十分に投資されてきているはずなので、比較的DXは着手しやすいと言えます。
しかしながら、大手企業になると生産管理、調達管理、物流管理などの管理業務においては、膨大な部品量、長年作られてきたシステム・VBAなどが十分にメンテナンスされないまま利用され続けているケースが多いです。
また、製造業は製品のライフサイクルが20年を越えるものもあり、当時の図面が残っていない、図面どおり製作しても現在の合格基準を満たせないなど、当時のことを知っている人がいないと容易には再生産ができないといった問題があります。
こうしたブラックボックスとも言える面は、まさに先述の「2025年の崖」で問題視されている課題に該当していて、DX推進には非常に大きな力を割く必要があります。
DX推進の課題を解決するためには、現在行っている業務や作業を一つひとつ洗い出し、理解し整理できる人材が必要です。しかし、膨大な量ですので、早いサイクルで回すために、現場従業員の積極的な協力を得ることも課題解決のポイントの一つと言えます。
DXを推進する際に必要なこととして「短期間での反復、継続的な改善」を挙げましたが、DXの恩恵を受けるのは従業員全員でなくてはならないので、一丸となって協力できる地盤づくりなど、組織の醸成が重要なポイントとなります。
最後に、DXに取り組み成果を上げた日本企業の具体例を3つご紹介します。
製造業は生産設備が必要、かつ材料を入手するために多くの資金が必要で新規参入がしにくい業界です。古くは明治時代から当時の財閥が国からの注文を受けて調達・製造する流れが主軸となっていたこともあり、長年にわたり町工場は大手の下請け、というイメージがついていました。
しかし、世界経済などの要因によって、主要取引先である大手企業からの製造依頼が来ないと経営難に陥り倒産になる、いざ工場に部品を発注したいときになっても工場のラインが空いていないなど、フレキシブルに対応できず、受発注の観点に関して問題を抱えていました。
そうした課題に着目したのがキャディ株式会社です。同社は機械・板金加工品の受発注をシステム化し、発注者はCADデータをアップロード、キャディは見積り、工場への発注、品質保証などを仲介する形で双方の調達課題を解消しており、社会課題をデジタルの力で解決したDXの事例と言えます。
現代における生産設備はプログラムも遠隔で流し込み、加工材料も自動セットされるなど、自働化が進んでいます。
ですが自働化には、生産ラインにおいてどこかに異常が発生すると、生産ライン全体がストップし生産計画に影響が出てしまうという問題があります。
そこで用いられたのが、「故障予知」の自動化です。
従来、故障の予兆は職人が異音などから見つける、といったものでした。ですが、研究が進められた結果、センサから取得したデータ(電圧変動など)を用いてパターンを割り出し、機械の故障や加工不良が発生する予兆を割り出すことに成功しています。
これにより、生産ラインの停止や、加工完了後の製品の精度不良などを事前に検知でき、生産ラインの安定運用が可能になっています。
「XR」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
XRとは、Augmented Reality(AR:拡張現実)、Virtual Reality(VR:仮想現実)、そしてその中間に位置するMixed Reality(MR:複合現実)の総称です。
XRの具体例としては、「服や眼鏡の試着をしたいけど、お店に行く手間は省きたい」といった購入希望者のニーズをARで実現した「バーチャル試着サービス」などがあります。
また、不動産業界では、わざわざ現地に行かなくても、現地にいるように物件の内覧ができる「VR内覧」などが有名です。
医療業界では、CT/MRIスキャンのデータを立体ホログラムとして表示・共有することで、医師同士の手術内容の打ち合わせなどに活用されています。
こうしたサービスではデジタルデータを活用しているため、手触りや香りといった五感で受け取る情報すべてを得ることはできません。ですが、デジタル技術を活用して従来の問題を解決する、という点においてはDXの成功事例と言えます。
ここまでで述べたように、DXでは「テクノロジーを用いて、より生活を豊かにする」という結果を得られることが最も重要です。そのためには、単にシステム置き換えなどを実施しただけではDXを実現したとは言えません。闇雲にIT化を推し進めるだけでは、労力のみを浪費するデジタライゼーションとなってしまいます。
そうならないために、充分な意識のすり合わせを行ったうえでDX推進のプロジェクトに取り掛かる必要があります。
また、そのプロジェクトには以下の人材が重要と考えます。
・目的と手段を間違えず、リーダーシップがとれる人材
・問題に合わせた多岐にわたる選択肢を出すことのできるITスペシャリスト
・業務プロセスの変更に伴う新たな問題を確認するビジネスプロセス設計者
・デジタルディバイドを意識し、情報収集に長けたコミュニケーター
・それらを実装、検証するエンジニア
自社でDXに着手する際は、ぜひ本記事でご紹介したポイントを意識してみてください。
著者プロフィール
利根川 宏之
重電系製造業に16年勤務。製造現場での製造業務、検査業務、備品管理、ヘルプデスク、システム開発、デジタル化支援業務に携わり、その後2年半システム開発会社にてプリセールスエンジニアとしてシステム設計業務に従事。
現在は外資SIerにて医療系製造業のIT運用保守の業務マネージャをする傍ら、執筆活動中