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IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノをインターネットと繋ぎ、新たな価値の作り出す技術です。昨今では、さまざまな分野でIoTの新たな活用方法が生み出されています。高度化が進むAI技術やセンシング技術の影響も受け、今後ますますIoTを活用したビジネスは加速していくでしょう。
製造業においてもIoTの活用が進む一方で、「自社の製品開発にIoTをどう活かせば良いのかイメージできない」という方もいることでしょう。IoTの導入自体を目的としたような製品開発では、IoTの本来の価値を引き出すことはできません。まずは、IoTの成功事例を知り、活用方法のイメージを掴むことが大切です。
この記事では、IoTの基礎的な仕組みを学んだ後、IoT技術の最新動向や製造業におけるIoTの具体的な活用事例を紹介します。
IoTとは、インターネットを使用してモノと通信する技術の総称です。これまではインターネットに繋がるのは、パソコンやスマートフォンなどの端末のみでしたが、最近では身近な家電製品までもがインターネットに接続できる時代となりました。
IoTでできることを端的に言うと「モノから情報を得る」「モノへ指示を送る」の2つです。つまり、IoTにより自分が居る場所を問わず、モノの状態を確認したり、作業したりする(またはさせる)ことができます。
私たちの日常生活での身近な例で言えば、IoTスマート家電などがあります。ロボット掃除機などはインターネットに繋がることで、外出先から掃除の指令ができ、掃除の状況をスマートフォンなどでリアルタイムに確認することもできます。
では、IoTシステムの構成とIoT技術で可能になったことを見ていきましょう。
標準的なIoTシステムは「IoTデバイス」「IoTゲートウェイ」「IoTサーバ」の3つで構成されます。
IoTデバイスとはセンサ、アクチュエータ、またはその両方と通信モジュールが一体となったデバイスです。遠隔でアクチュエータを作動したり、センサから情報収集を行ったりすることができます。
IoTゲートウェイは、IoTデバイスからデータをIoTサーバに送信したり、またその逆の通信を行ったりする中継地点のことです。IoTサーバの負担を減らすため、データの送信タイミングの調整や、フィルタリングなどの前処理もIoTゲートウェイで行います。
IoTサーバはIoTデバイスから収集したデータを蓄積し、加工や分析を行うデータの貯蔵庫です。
IoTの基本的な活用方法は、
・収集したデータを見える化する
・収集したデータを蓄積・分析する
・IoTデバイスを遠隔操作する
の3つです。具体的には、機械に取り付けたセンサからデータを取得しその情報を、ゲートウェイなどを通してクラウドサーバなどに送信し、サーバ上で見える化や分析を行います。
前項のロボット掃除機の例からも分かるように、IoT活用は稼働状況の「見える化」や、スマートフォンなどのデバイスからの「遠隔操作」に留まっていることが多いです。しかし、昨今ではIoTを用いて蓄積したデータから「どのような価値を生み出すか」ということに注目が集まっています。そのトレンドを牽引しているのがAI(人工知能)と5G(第5世代移動通信システム)です。
現在は第三次AIブームと呼ばれており、どの分野においてもAIは広く活用されています。AIブームの火付け役となったのが、ディープラーニングと呼ばれる機械学習技術です。これらのAIの学習には大量かつ継続して取得できるデータが必要なため、機械からさまざまな情報が自動で取得できるIoT技術は、AIと非常に相性が良いと言われています。
IoTにより蓄積したデータをAIで学習させ、人間には見つけることのできない価値や法則を見いだして自社のビジネスに繋げるという取り組みが始まっています。
IoTとAIを組み合わせた具体例としては、インターネット関連サービスを数多く展開するアメリカのA社の地図アプリが挙げられます。私たちのスマートフォンは、一つのIoTデバイスとしてA社に「今どこにいて、どのくらいの速度で移動しているか」という情報を発信しています。A社は多くのユーザーから位置情報を収集し、AIで解析することで、渋滞情報や混雑予想のデータに変換しています。私たちが何気なく見ている渋滞情報もIoTやAI技術の賜物なのです。
5Gには「高速大容量」「多数同時接続」「超低遅延」などの特徴があります。これらの特徴を活かすことで、複数のIoTデバイスから大容量データを取得できたり、リアルタイムにデータ取得や操作ができたりと、データ収集と活用が大幅に広がっています。
5Gは2020年3月から国内でも提供されるようになりました。まだ、カバーしているエリアが狭いですが今後広がっていくのは確実です。また、通信キャリアが提供する5Gとは別に、企業などが独自の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」などもあります。既にローカル5GとIoTを活用した取り組みは多くの会社で始まっています。
IoTと5Gを組み合わせた具体例としては、5Gを活用したドローンによる無人配送システムが挙げられます。5Gの特徴を活かすことで、ドローンの安定した制御が可能となり、安全な空の物流システムの構築が期待されています。まだ、実用化までは至っていないものの、長野県伊那市では大手通信キャリアのB社と協定を結び、実用化を目指して実証実験を行っている最中です。
ここからは、製造業においてIoT技術がどのように活用されているのか具体例を紹介します。
空調機メーカーのC社では、家庭用空調機の運転データや故障の情報をIoTによりサーバに蓄積し、AIによる学習を行うことで、従来であれば現場に出向かなければわからなかった故障箇所の特定、故障発生前の運転異常予兆などを遠隔で検知することを可能としました。また、市場投入後の製品の不具合情報を迅速に収集できるため、現行製品の失敗を次の製品開発に活かす一連のPDCAサイクルを、従来比で1年以上短縮することに成功しています。
建設機械メーカーのD社では、5Gを用いた通信を行うことで、大型ブルドーザーの遠隔操作を実現しました。これにより熟練オペレーターの不足や人材確保などの問題解決が期待されています。遠隔操作の課題である応答遅延を5Gの活用により解決することで、ブルドーザーのような大型な機械でも一つのIoTデバイスとして扱うことが可能となっています。
ソフトウェア・サービス事業を展開するE社では、専用のサイコロ型IoTデバイスを活用し、製造現場での作業工数管理を実現しています。サイコロ型IoTデバイスとは、立法体形状のIoTデバイスであり、各面に番号、または作業名が割り当てられています。サイコロの上面に対応した信号が送信される仕組みとなっており、作業者はサイコロの向きを変えるだけで「現在行っている作業」を入力することができます。これにより、作業者が紙やシステムに入力する必要がなくなり、かつ作業工数を正確に把握できるようになりました。
精密測定機器メーカーのF社は、ノギスやマイクロメータなどといった測定工具をIoT化することで、製品の検査結果を自動で収集することを可能としました。さらには、検査結果を一元管理、かつリアルタイムで収集・分析することで不良品の発生を予想する取り組みもなされており、期待が集まっています。
IoTを始めとするデジタル技術の発展により、ものづくりは過渡期にあります。従来の「モノづくり」からデータを利用したビジネスモデルの創出、いわゆる「コトづくり」へと移り変わっていくでしょう。IoTシステムの設計にあたっては、個別の技術に対する理解だけでなく、システム全体を見渡して「データから価値を引き出す仕組みづくり」が必要なのです。
執筆者プロフィール
渋井 亮介
大手機械メーカーに勤める現役の機械設計エンジニア。現在は、IoTやAI関連のIT技術も担当している。技術ブログ「しぶちょー技術研究所」を運営しており、ものづくりに関する幅広い技術記事を執筆。