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RFIDは電波や電磁波を用いた無線通信システムであり、離れた場所でも情報の読み書きが可能です。使用する周波数によっては、ダンボール箱やビニール袋に収納されていても通信できるため、在庫管理や物流などで多くの場面で利用されています。この記事では、RFIDの特徴や種類、導入事例などを紹介します。
RFID(Radio Frequency Identification)は電波や電磁波を用いた無線通信により、離れた位置でも非接触でRFタグのデータを読み書きできるシステムです。
RFタグには読取り装置から発せられた電波を受け取って給電するためのコイルと、情報を保存しておくためのICチップで構成されています。
「ICタグ」や「電子タグ」などさまざまな呼称がありますが、日本工業規格JISでは「RFタグ」と定められており、この記事では「RFタグ」として記載いたします。
RFIDの通信原理には「電磁結合方式」「電磁誘導方式」「電波方式」の3種類がありますが、一般的に広く用いられる方式は「電磁誘導方式」と「電波方式」の2種類です。
PCやスマートフォンで利用されるWi-Fi・Bluetoothと言った近距離無線技術とRFIDの違いについて説明します。
RFIDの通信範囲は、「電波方式」のUHF帯やマイクロ波帯であれば数m先まで通信可能で、社員証やおサイフケータイといった「電磁誘導方式」のHF帯では数cmほどです。
一方、Wi-Fiの通信範囲は数十メートルから100m程度、Bluetoothで一般的に使用されるClassの通信距離は10m程度となり、近距離無線技術のほうが比較的通信範囲が広いです。
RFIDは金額や番号といったデータ量が少ないデータを一度きりの通信で済む場合に多く利用されます。RFタグ自体は電源を持たず、読み取り機器から発せられた電波などを動力源として稼働するため、RFタグは低コストで利用でき、破損しなければ半永久的に作動します。
一方、近距離無線技術ではデータを頻繁にやり取りする必要があるため、送信・受信ともに電源や通信用ICが必要となります。
一口にRFIDと言っても、使用する周波数によって通信距離や用途が異なります。
RFIDには周波数順にLF帯(135kHz以下)、HF帯(13.56MHz)、UHF帯(860~960MHz)、マイクロ波帯(2.45GHz)があります。それぞれの種類の特徴について説明します。
LF帯は電波の周波数が135kHz以下で使用されます。通信方式は電磁誘導方式です。
LF帯の周波数は低いため、他の周波数帯と比較して指向性が広く、水や遮蔽物の影響を受けにくく長年の利用実績があります。
LF帯の通信速度は遅く、通信距離も10cm程度です。
そのため、間近でデータ量の少ないデータを読み取りのみで使用されることが多く、自動車のキーレスエントリーなどで使用されています。
HF帯は13.56MHzの周波数で使用されます。おサイフケータイや社員証などがこのHF帯で利用されるため、日常生活において多く利用されているのがHF帯です。
HF帯は読み取り機器とRFタグが1対1で通信し、LF帯と比較すれば通信速度が比較的早い特徴があります。
HF帯にNFC(Near Field Communication、近距離無線通信)と呼ばれる規格があり、交通系ICカードなどで使用されるソニー社が開発した「FeliCa」、社員証やセキュリティカード等で使用される「Mifare」などがあります。
UHF帯は860~960MHzで使用されます。LF帯やHF帯が通信原理として電磁誘導方式であるのに対し、UHF帯は電波方式です。
UHF帯の通信範囲は数m先まで通信可能で、1つのアンテナで複数のタグを一括して通信できるため、在庫や商品管理など一括で読み取りする際に使用されます。
一度に複数のタグと通信できるため、UHF帯のRFタグを導入することで、棚卸しにかける時間を大幅に短縮できます。
マイクロ波帯は2.45GHzを利用しており、この周波数はISMバンド(Industrial Scientific and Medical Band、産業科学医療用バンド)に属します。
Wi-FiやBluetooth、電子レンジなどもISMバンドに割り当てられており、他の電波と干渉する可能性があります。
そのため、マイクロ波帯のRFIDを使用する際はWi-Fiや電子レンジなどとの電波干渉を避けるよう対策を講じる必要があります。
周波数帯 | LF | HF | UHF | マイクロ波 |
---|---|---|---|---|
周波数 | 135kHz以下 | 13.56MHz | 860~960MHz | 2.45GHz |
通信方式 | 電磁誘導 | 電磁誘導 | 電波 | 電波 |
特徴 | 水や金属の影響を受けにくい | 薄型・小型化が可能 | RFタグの一括読取が可能 | 電波干渉が懸念 |
用途例 | 自動車のキーレスエントリー | 交通系ICカード | 在庫・商品管理 | 書類管理 |
RFIDを利用するメリット・デメリットについて、近距離無線通信(Wi-Fi・Bluetooth)およびバーコードと比較してお伝えします。
RFIDのメリットについて、近距離無線通信システムと比較すると、通信対象機器のバッテリーレス・通信IC不要などが挙げられます。
社員証の認証や在庫管理などの場合、読み取り機から1度きりの通信で済む場合が多く、読み取り機器から発せられて電波を動力源とするRFタグを使用すれば低コストで読み取りシステムが実現できます。
バーコードと比較したときのメリットは、RFタグが書き換え可能、複数のRFタグを一括で読み込める、箱の中でも読み取れる点などが挙げられます。
バーコードの場合は1つひとつ至近距離で読み取る必要があり、読み取るためにバーコードが見えるように取り出さなければいけません。
一方、UHF帯のRFタグであれば、複数のタグ一括で読み取りが可能で、非金属の箱であれば箱から取り出さずに読むことも可能です。
RFIDと近距離無線通信を比較したときのデメリットは、通信速度が遅い点です。電磁誘導方式のLF帯やHF帯では数kbps程度、一方でBluetoothやWi-Fiは数10Mbpsから環境によっては数Gbpsに達します。
バーコードと比較したときのデメリットは、初期導入費用が高い点です。紙に印刷するバーコードに対し、RFタグは金属のアンテナやICチップ等で構成される分、割高になります。
RFIDを導入する際の一般的な手順はおおまかに次のとおりです。
1.現状分析・課題の洗い出し
検討している業務課題やRFIDの導入によってどのような状態としたいか、導入に現場上の障壁があるか、見込む効果のシミュレーション、初期・維持コストの算出などを行います。
2.事業者に相談
1を行ったらば、実際にRFID事業者に相談し、合わせて見積もりを取りましょう。
3.RFタグ・リーダー等の選定
RFタグ、リーダーのほか、導入機器や運用方法によってRFIDアンテナやRFIDプリンタなどを選定します。
4.トライアル導入・検証
本番に近い環境でテストし、運用が問題ないか、想定している費用対効果が見込めるかを確かめます。
5.本導入・運用
導入後はトライアルで適応した部分から徐々に導入範囲を広げながら効果測定を行い、運用・体制の調整を行っていきます。
なお、UHF帯のRFIDリーダーは、最大出力が1W以下で250mWより大きい場合、総務省への電波利用申請をおこなわなければなりません。電波利用申請には、申請書、工事設計書、システム構成図といった資料と利用料金の支払いが必要です。
250mW以下の「特定小電力」に分類されるRFIDリーダーは申請が不要で使用できます。250mW以下のRFIDリーダーでも1m程度であれば通信可能なため、まずは特定小電力タイプのリーダーで読み取りできるかを検討すると良いでしょう。
まずは航空業界で工具をRFIDで管理する事例です。日々のメンテナンスに欠かせない工具ですが、たくさんの人を乗せて飛ぶ飛行機において、わずかな工具の欠損すら事故につながりかねません。そこで工具をRFタグで管理することにより、誰が何をいつ持ち出し、返却したかを管理しています。
もう1つは回転寿司の例です。回転寿司では寿司ネタごとにRFタグを仕込んだ皿を流しています。その皿のRFタグにより、ネタの消費量や賞味期限などを管理でき、商品の管理だけでなく、仕入れや廃棄時期の判断としても活用しています。
・RFIDは離れた位置から非接触で通信できるシステム
・RFIDは番号や金額など1度きりの通信で使用されることが多い
・RFIDの導入により管理コストの削減が見込まれる
RFIDの導入によって管理コストを削減できる見込みがあります。物の管理にお悩みの際はRFIDの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール
芦ヶ谷 宏樹
大手メーカーで電気設計エンジニアとして15年従事しながら、電気設計や製造業に関する記事を執筆。身近な存在でありながら実はよく分からない電気について、誰にでも分かりやすい記事を書くよう心がけている。