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昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務の効率化が注目を集めています。しかし、製造業の製品開発においては、業務フローが非常に煩雑であり、デジタル技術の導入による業務効率化が進んでいないのが現状です。まずは複雑な業務フローを簡素化し、効率化を図る必要があります。そのための手法の一つに、モジュール設計があります。
モジュール設計は、難易度の高い取り組みです。導入するために多くの検討が必要であり、運用を続けるにもさまざまな課題があります。その分、モジュール設計を実現できた際は大幅な効率化が期待できます。まずは、モジュール設計の概要を理解し、自社製品での活用イメージを掴むことが大切です。
この記事では、モジュール設計の基礎を解説した後、モジュール設計の導入方法や実際の活用事例を紹介します。
モジュール設計とは、モジュールをあらかじめ設計しておき、それらを組み合わせて製品を設計する手法です。
従来の製品開発で行われている設計手法は、「擦り合わせ設計」と呼ばれています。まず製品全体を構想し、そこから一つひとつの要素を設計していくトップダウン型の設計手法です。
一方で、モジュール設計は、あらかじめ準備したユニットやアセンブリ(モジュール)を要求仕様に従って組み合わせるボトムアップ型の設計手法です。モジュール設計は、従来型の設計手法と比べて、短期間で製品開発を進めることができるという特徴があります。
モジュール設計を活用している代表的な製品としては、自動車が挙げられます。例えば、自動車の構造を大まかに、ボディ、シャーシ、エンジンという3つのユニットに分けるとしましょう。それぞれのユニットに対し、4種類のモジュール(A,B,C,D)を用意し、お互いに組み合わせができるようにすると
車種○○(ボディA、シャーシA、エンジンA)
車種△△(ボディB、シャーシB、エンジンD)
車種□□(ボディC、シャーシA、エンジンB)
…… といったように、組み合わせだけで16パターンの仕様を準備することができます。これがモジュール設計の大まかな例です。
モジュール設計を行うことでQCD(Quality/品質、Cost/コスト、Delivery/納期)の向上につながります。
事前に用意したモジュールを組み合わせることで、新規設計を減らすことができます。担当設計者ごとの熟練度の差を最小化し、設計品質を安定させることが可能です。さらには新規設計が減ることによって、同じモジュールを何度も作ることになるため製造品質も向上にもつながります。
モジュール設計を行うと、違う機種同士で同じモジュールを共有することになります。結果として、部品の種類を減らすことができます。同じ部品を大量に生産できるため、量産効果によりコストダウンにつながります。
モジュール設計を導入することで、設計工数を削減でき、開発リードタイムの大幅な短縮につながります。これにより市場の要求に対し、迅速に対応できるようになります。
モジュール設計は、導入するための検討事項が多く、導入前に多大な工数が掛かるのが大きなデメリットです。モジュールの区分けや管理に関するルール決めが必須であり、これらを正しく行わなければ、モジュール設計のメリットは得られません。そればかりか、逆に品質が低下したり、無駄な工数が増えたりすることにもなりかねません。
モジュール設計を導入する上で、どのような検討が必要かを見ていきましょう。大きく分けて、モジュール化、モジュール管理の2つの検討が必要になります。
モジュールを検討する上で、まず行うのが仕様のモジュール化です。例えば自動車の場合、走る機能、止まる機能、曲がる機能があるので、機能ごとにモジュールとして区分けて、仕様を振り分けます。
また、走る機能の中でも、速く走りたい、燃費良く走りたいなど、要求はそれぞれ異なります。下記のように各機能について仕様ごとにモジュールを設けて管理します。
走る機能:仕様A、仕様B、仕様C……
曲がる機能:仕様A、仕様B、仕様C……
止まる機能:仕様A、仕様B、仕様C……
定めた仕様モジュールを選ぶことで、市場や顧客の要求仕様を実現できるようにします。仕様モジュールは、「選ぶためのモジュール」と言い換えることができます。
仕様のモジュール化で決めたモジュールとは別に、機能を実現するために必要な構造体をモジュール化します。こちらは「製造するためのモジュール」と言い換えることができます。自動車で言えば、ボディ、シャーシ、エンジンなどのユニットの区分けが構造のモジュール化の例です。
単純に構造的にモジュールを区分けるだけでなく、それぞれのモジュールが組み合わせできるように共通のインターフェースを定め、設計する必要があります。また、組み合わせだけでは対応できない特注案件にも対応できるように、変動部(構造は変更できないが、寸法は変更できる部分)を設け、自由度を高める工夫も必要です。
モジュールの管理においては、間違った選択をしない仕組みづくりが重要です。要求に応じて正しくモジュールを選び、必要な仕様を実現できるようにします。具体的には、仕様モジュールと構造モジュールの紐づけを行います。
例えば、走る機能:仕様Aを実現するためには、構造モジュールのエンジンA、シャーシBが必要、などと言ったように、仕様と構造を結び付けて管理します。
また、モジュールの選択では仕様的な制約条件が必ず発生します。例えば、走る機能:仕様Aを選んだ際は、止まる機能:仕様Bを選ばなければならない、などです。モジュールを選択する技術者が間違った組み合わせを選ばないように、組み合わせの制約を明記し、管理する必要があります。
T社では、2015年に車両設計を刷新し、新たにモジュール設計を取り入れました。元々モジュール設計の活用が進んでいる自動車業界ではありますが、モジュール設計に合わせて組織や仕事のプロセスまで変更し、さらなる効率化を図っています。開発コンセプトに基づく共通プラットフォーム(シャーシ)の開発に始まり、エンジンやパワートレイン関連のモジュールは種類の絞り込みを行い、組み合わせ主体で効率的な開発を行える体制が出来上がっています。2015年から2022年現在までに、40車種以上に展開されています。
筆者の体験談として、産業機械のモジュール化の失敗事例も紹介します。産業機械は自動車とは異なり受注生産であることが多く、顧客要求に合わせた特注設計が基本です。それゆえに多大な設計工数が掛かります。業務効率化のため、モジュール設計の導入を行うことになり、筆者が担当しました。
今までに製作実績のある特注仕様を全て、モジュールの組み合わせで実現できるように検討したところ、ユニット数が10個、各モジュールの10個でモジュールの総数が10 x 10 = 100個となってしまいました。これでは管理を行う上で、あまりに多すぎます。モジュールを減らす対策として、今度はユニット数を17個に増やし、各モジュール4個に減らし、総モジュール数17 x 4 = 68個として、それぞれの組み合わせで仕様を実現できるように工夫しました。しかし、今度は組み合わせが増えたことでモジュールの選択が煩雑になり過ぎてしまい、運用ルールの制定が出来ませんでした。
最終的には、営業サイドと打ち合わせて製作する機械仕様を絞ることで、モジュールの数を減らし、モジュール設計を導入しました。筆者の失敗は、既に実績のある仕様でモジュール化を行おうとしたことです。モジュール設計導入の際には、まず「モジュール設計に合わせた機械仕様」を検討するが必要があるのです。
モジュール設計は、効率化においては強力な武器となります。しかし、導入するには今まで行ってきた業務を変革する必要があります。担当者だけで取り組めるものではなく、会社全体を巻き込んだ大きなプロジェクトとなるでしょう。しかし、強い組織として成長するためにはモジュール設計は必須の取り組みです。是非ともトレンドであるDX導入だけでなく、モジュール設計による業務改革にも愚直に取り組んでみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール
渋井亮介
大手機械メーカーに勤める現役の機械設計エンジニア。現在は、IoTやAI関連のIT技術も担当している。技術ブログ「しぶちょー技術研究所」を運営しており、ものづくりに関する幅広い技術記事を執筆。